障害者虐待防止法において障害者虐待が禁止されていますが、障害者福祉施設従事者等による身体的虐待としては、同法第2条第7項第1号により、「障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること」と定義され、正当な理由のない身体拘束は虐待にあたるとされています。 身体拘束の具体的な内容としては、以下のような行為が該当します。これらはあくまで例であり、「利用者の生活の自由を制限し、利用者の尊厳ある生活を阻む行為」という観点から身体拘束の該当性を判断します。
(1)「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害者 支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準」 (平成18年9月29日付厚生労働省令第172号)第48条等、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービス事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成18年9月29日付厚生労働省令第171号)第73条等において、「…利用者又は他の利用者の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下「身体拘束等」という。)を行ってはならない。」「…やむを得ず身体拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由その他必要な事項を記録しなければならない。」とされています。
(2)そして、障害者福祉施設等における 障害者虐待の防止と対応の手引き(令和2年10月版)において、やむを得ない場合の要件や手続については、次のとおり記載されています。
やむを得ず身体拘束を行う場合には、以下の3要件を全て満たす必要があり、その場合であっても、身体拘束を行う判断は組織的にかつ慎重に行います。
利用者本人又は他の利用者等の生命、身体、権利が危険にさらされる可能性が著しく高いことが要件となります。切迫性を判断する場合には、身体拘束を行うことにより本人の日常生活等に与える悪影響を勘案し、それでもなお身体拘束を行うことが必要な程度まで利用者本人等の生命又は身体が危険にさらされる可能性が高いことを確認する必要があります。
身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する方法がないことが要件となります。非代替性を判断する場合には、まず身体拘束を行わずに支援する全ての方法の可能性を検討し、利用者本人等の生命又は身体を保護するという観点から、他に代替手法が存在しないことを複数職員で確認する必要があります。また、拘束の方法についても、利用者本人の状態像等に応じて最も制限の少ない方法を選択する必要があります。
身体拘束その他の行動制限が一時的であることが要件となります。一時性を判断する場合には、本人の状態像等に応じて必要とされる最も短い拘束時間を想定する必要があります。
やむを得ず身体拘束を行うときには、個別支援会議等において組織として慎重に検討・決定する必要があります。この場合、管理者、サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、運営規程に基づいて選定されている虐待の防止に関する責任者等、支援方針について権限を持つ職員が出席していることが大切となります。 また、必要に応じて相談支援専門員の同席も検討します。身体拘束を行う場合には、個別支援計画に身体拘束の態様及び時間、緊急やむを得ない理由を記載します。これは、会議によって身体拘束の原因となる状況の分析を徹底的に行い、身体拘束の解消に向けた取組方針や目標とする解消の時期等を統一した方針の下で決定していくために行うものとなります。ここでも、利用者個々人のニーズに応じた個別の支援を検討することが重要となります。
身体拘束を行う場合には、これらの手続きの中で、適宜利用者本人や家族に十分 に説明をし、了解を得ることが必要となります。
行動制限・身体拘束する場合、市町村の障害者虐待防止センター等、行政に相談・ 報告して、行動制限・身体拘束も含めた支援についての理解を得ることも重要です。 行動障害のある利用者支援の中で、事業所で様々な問題を事業所で抱え込んでしまうことがあります。事業所で抱え込まないで、関係する機関と連携することで支援について様々な視点からのアドバイスや情報を得ることができます。行政に相談・報告することで、支援困難な事例に取り組んでいる実態を行政も把握できることになります。また行動改善の取り組みの進捗についても定期的に報告することで、組織的な行動改善に向けた計画的に取り組みの推進を図ることに繋がります。
また、身体拘束を行った場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の 状況並びに緊急やむを得ない理由等必要な事項を記録します。なお、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準」では、以下のように定められているため、必要な記録がされていない場合は、運営基準違反に問われる場合があります。
身体拘束は、利用者の生活の自由を制限するものであり、利用者の尊厳ある生活を阻むものです。当法人では、利用者の尊厳と主体性を尊重し、拘束を安易に正当化することなく職員一人ひとりが身体的・精神的弊害を理解し、拘束廃止に向けた意識を持ち、身体拘束をしない支援の実施に努めます。 身体拘束を行う必要性を生じさせないために、日常的に以下のことに取り組みます。
当法人では、身体拘束の廃止に向けて身体拘束適正化検討委員会(虐待防止等委員会内)を設置します。
委員会の開催は1年に3回以上の開催とし、必要に応じてその都度開催します。 緊急な事態(数時間以内に身体拘束を要す場合等)は、職員より上長に報告の上、 関係職員を招集し臨時の会議を開催します。委員会に参加できない職員等が想定される場合は意見を聞くなどの対応により、当該意見を踏まえ検討します。
当法人では職員に対し身体拘束等の適正化のための研修を定期的に実施します。 実施の内容は開催の都度、記録を作成します。
やむを得ず身体拘束を行わなければならない場合は、以下の手順に従って実施します。
やむを得ない状況になった場合、身体拘束適正化のための検討委員会を中心とし て、拘束による利用者の心身の損害や拘束をしない場合のリスクについて検討し、身体拘束を行うことを選択する前に①切迫性、②非代替性、③一時性の3要素の全てを満たしているかどうかについて検討・確認します。 要件を検討・確認した上で身体拘束を行うことを選択した場合は、拘束の方法、場所、時間帯、期間等について検討し、本人・家族に対する説明書を作成します。 また、廃止に向けた取組改善の検討会を早急に行い実施に努めます。
身体拘束の内容・目的・理由・拘束時間又は時間帯・期間・場所・改善に向けた取組方法を詳細に説明し、理解が得られるように努めます。 また、身体拘束の同意期限を終え、なお拘束を必要とする場合については、事前に本人や家族に説明をした内容と方向性、利用者の状態などを確認・説明し、同意を得 たうえで実施します。
身体拘束の内容、時間帯、心身の状況、やむを得なかった理由などを記録します。 身体拘束の早期解除に向けて、拘束の必要性や方法を随時検討します。その記録は5年間保管します。
③の記録と再検討の結果、身体拘束を継続する必要がなくなった場合は、速やかに身体拘束を解除します。なお、一旦、その時の状況から試行的に身体拘束を中止し必要性を確認する場合、再度、数日以内に同様の対応で身体拘束による対応が必要となった場合、本人や家族の了承のもと同意書の再手続なく同様の対応を実施させていただきます。
この指針は求めに応じていつでも法人内にて閲覧できるようにするとともに、当法人のホームページにも公表し、閲覧できるようにします。
本指針は、令和4年10月1日より施行する。